祥野獣一の日々の記録


by show_no_11
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忘れられない一日

芝居屋風雷紡 第十一廻公演


『しょうちゃん一日』


当日パンフレット用『忘れられない一日』



生きていると、人は「まさか?!」と思う瞬間にしばしば出合う。






朝起きて時計を見たら集合時間だった時。




「まさか!?




宝くじの当選番号を合わせていて下三桁まで合っている時。




「まさか?!




家に帰って来て鍵を鍵穴に挿し、ひねった瞬間手応えが無かった時。




「まさか?!






それはちょっと嬉しいものから、シャレにならないものまで千差万別、枚挙に暇が無い。








忘れられない一日。


私にその「まさか?!」の瞬間が訪れた。




それは言うなれば凡ミスだ。


普段ならそんなミスは犯さない私のちょっとした不注意。


しかしその不注意で数分間が永遠になった。


さらにそんなことは人生初だったし、出来ることなら最初で最後の凡ミスにしたい。






そう、そして忘れられない一日は何の前触れもなくやってきた。




前日の夜、何かの飲み会でやや多めに飲んでいた。


盛り上がる宴をよそに時は刻まれる。


休日ダイヤだということを計算に入れていなかったため、まんまと終電を逃す。






何とか一宿一飯の宿にありつき、眠りにつく。




目覚めると出発時間がかなり迫っていた。


朝から仕事なので慌てて駅に向かう。


駅に着くと慌ただしい人の流れ、今日が月曜日だということに気づく。


時間は午前8時前、ちょうどラッシュの時間だ。


普段の通勤がラッシュアワーとは無縁な為、その事実に気づき少し憂鬱になる。


乗り慣れないラッシュの電車、そしてラッシュタイム。


この慣れないラッシュタイムが、その後私の身に降り懸かる「まさか!?」の序章だった。




調べた電車の時間に間に合わせるためには少々小走りが必要だった。


人波を掻き分け、ホームへと向かう。


改札を抜け、階段を駆け降りる。


目的の電車がまだ来ていないことを確認し、走る速度を緩めた。


進行方向前方車輌に乗る方が乗り換えがスムーズなことを知っていたので、電車が来るまでの数分間ホームの端を目指して歩く。




中程の車輌がやや混雑しているのに対し、前方の方はややその混雑が緩和されている。


その時はホームの端だからだろうぐらいにしか考えていなかった。




ホームを歩いていると、轟音とともに電車が滑り込む。


一陣の風が通り抜け、上着のコートが揺れる。




車中の前から2両目3両目がかなり混雑していることがわかる。


1両目はやや余裕があるように見えた。


ホームの端に向かって歩いていたので1両目まではさほどの距離ではない。


前方車輌に乗りたい私は迷うことなく、やや余裕のある1両目へと再び小走りで向かう。






この時の判断が全て間違いだった。






たどり着いた1両目の端、2両目よりの扉。


そこから乗ったのは私と女性が一人。


それでもやはり混雑している車中。




時間通りの電車に乗れた私は満足し、小走りでやや乱れた息を整える。


車中は暑くやや汗ばむ。






そして






感じる視線






突き刺さる眼光








先ほど同じドアから乗った女性が何故か私を見ている。


ジッと見ている。


睨んでるとまではいかないが、突き刺さるような視線。




ふと、それとは別の女性に目が行く。


その女性は私に対して真横を向いているのだが、明らかに横目で見ている。






何故?何で?WHY






ラッシュアワー、前方車輌、女性からの視線。




この式から導かれる答えがうっすら頭をよぎる。








「まさか


「まさか


「まさか






私は恐る恐る周りを見渡す。








女性。


女性。


女性。


女性。


女性。


女性。


女性。


女性。


女性。


女性。






もう答えは明白だった。












女性専用!!!!!












それに気づいた瞬間、身体が熱くなるのがわかった。


心拍数も同時に上がる。


再び噴き出す汗。




汗。




汗。




……汗。






下りなくては!


もちろん瞬間そう思った。


同時にある映画を思い出したりした。


「それでも私はやっていない」


いや、そんなことすら主張出来るような状況ではない。




四面楚歌。




この時ばかりは聞いたことのない楚軍の歌が聞こえてくるような気がした。






次の駅で降りて車両を変えよう。


もちろんそう決意した。




決意してから次の駅までの長いこと長いこと。


気づくまでは全く感じなかった女性の匂い。


実際鼻孔を刺激するわけではないが、何か違和感を感じる。




永遠とも言えるほんの数分は電車のブレーキ音によって掻き消される。




地獄からの解放は間近だ。


本来なら天国であるはずの女性に囲まれたこの状況。


しかし押し込められた車内は私にとってもはや牢獄と化していた。




駅に滑り込む車輌。


窓の外に広がる景色に私は愕然とした


ホームがない!












開くのは反対のドア!








混雑した車内を掻き分け反対側に回るのはそれ相当の勇気を必要とした。




開くドア。


しかし乗客が降りる気配はほとんどない。


振り絞る勇気もない。




虚しくドアは閉まる。






再び始まる永遠


張り詰める緊張


切れそうで切れない糸






もうこの状況に耐えるしかなかった。




自分の降りたい駅は次の次の駅。


最悪そこまで耐えれば良い。


周りの女性客が降りようが降りまいが、その瞬間は英断が必要になるだろう。






妖怪や幽霊に囲まれた耳無し芳一はきっとこんな気分だったに違いない。


気配を消し、ただひたすら祈る。




再び始まった永遠の中、自分が何を思い、何を考えていたか、今はほとんど思い出せない。






垂れ下がる蜘蛛の糸も見当たらない。






待ち続け、到着した駅でかなり多くの人が降りた。


このチャンスを逃すわけにはいかない。


周りに気を配る余裕もなく、開かれた天国へのドアを目指す。


距離にしたらほんの数メートル。


まさか生きている間にこんな間近で天国のドアを見られるとは()








命からがらホームに降り立ち、素早くその場を後にした。


隣の車両を目指して一目散。








再び走り出す電車。


車内は親父臭で溢れていた。


しかしその時の私には、目の前のハゲ頭、突き出た腹、テカる皮膚が蓮池にも如き神々しさを放っているように見えたのだ。






男性諸氏!


どうか気をつけていただきたい。


朝のラッシュと前方車輌に。


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by sin1_s | 2017-08-10 13:48 | Stage Room